BLと少年愛の研究室

少年愛の歴史~文化から虐待への認識転換~②少年愛って何?

少年愛って何??

一般に少年同士、もしくは少年を対象とした性愛という漠然とした意味で流布している少年愛という言葉。

しかし、この言葉は辞書には存在しておらず、明確な定義が存在しません。
ここで、少年愛の法規制の歴史をみていくにあたって、少年愛の定義を考えてみようと思います。    

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(映画「寄宿舎~悲しみの天使~」より上級生と下級生の少年が血の契りを交わす場面)

少年愛」という言葉はいつからあるの?

少年愛という言葉がいつから用いられたかは明確ではありません。

明治時代から1960年までの主な書物では

同性愛、男色(だんしょく)、衆道(しゅどう)、鶏姦(けいかん)、ソドミー

などという言葉が、成人男性同士の性関係とともに、今でいう少年愛の意味を含んだ言葉として用いられていますが、少年愛という言葉は用いられていなません。

例えば、1954年の『風俗科学』第二巻四号に掲載された、文筆家の鹿火屋一彦の論文「少年同性愛」では、十代の少年同士の恋愛について、題名となっている少年同性愛という言葉の他、男色、同性愛、そどみいなどの言葉を用いていますが、少年愛という言葉は用いていません。*1

おそらく、少年愛という言葉が、成人男性同士の恋愛を含まない、少年を対象とした独立した言葉として用いられたのは、1968年に出版され、翌年日本文学大賞を受賞した稲垣足穂の『少年愛の美学』の前後ではないでしょうか。

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稲垣足穂少年愛の美学

足穂は、ここで少年愛の定義は行っていませんが、「大旨のソドミットは、(彼らは少年愛卒業を以て任じていることであろうが)少年愛の手前における沈没である。」と述べ*2、成人男性同士の同性愛と少年愛をはっきりと分け、少年愛を優れたものとして肯定的に捉えています。

また、1970年代には、竹宮恵子先生や萩尾望都先生など「花の24年組」と呼ばれる漫画家の先生たちが、十代の少年同士の恋愛を盛り込んだ作品を発表し、一世を風靡しています。

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(『ポーの一族』より。私が好きな場面です)

ペドフィリアという病理

このように、少年愛という言葉は、芸術や文化と結びついて肯定的に用いられる一方、病理である小児性愛(pedophilia)思春期性愛(hebephelia)の一種として否定的に捉えることもできます。

小児性愛という病理には様々な解釈がありますが、DSM-IV(『精神障害の分類と診断の手引き 第四版』)では「少なくとも6ヶ月にわたって、思春期前の子供(一般的に十三歳以下)に対する強い性的空想や性的衝動あるいは性的行動が反復的に生起する」状態であると定義しています。*3

また、思春期性愛とは、思春期の子供に示す性的欲望のことであり、成人男性が少年(通常十二歳から十六歳まで)と肛門性交を行うことはペデラスティ(pederasty)と呼ばれています。*4

医学博士羽太鋭治と性科学者の澤田順次郎によって大正4年に発行された『変態性欲論』では、「ペデラスチーは、希語の、少年の愛という義にして」と述べており*5少年愛に最も近い意味であるように考えられます。

無視できない女性の幼児性愛者という存在

しかし、思春期前後の少年に性的・恋愛的な関心を抱くものは、男性に限りません。
ファンガーソンとミューレンの研究報告によると、少年への性的虐待の約20%が女性によって行われているといいます。*6
日本でも、江戸時代に陰間を買っていた中には、女性も多くいました。

少年愛について考えるとき、女性の存在は決して無視してはならないものなのです。

ここでの少年愛の定義

そこで、ここでは少年愛を、

・成人男女が、思春期前後の少年に抱く恋愛感情、または性的嗜好
・もしくは思春期前後の少年同士の性的・恋愛的関係

と定義し、考察していきます。

思春期前後の少年の具体的な年齢については、個人差があるため厳密に決めることは難しいです。

しかし、現在子どもの権利条約などで、子どもが十八歳未満と定められていることや、第二章で少年愛の形態として考察する陰間の中には数えで十歳の少年もいたこと*7などを考慮し、

・思春期前後とは九歳から十七歳
・成人とは十八歳以上

とします。

また、十八歳の女性が十七歳の男性と恋愛関係にあることを少年愛とみなすことには、身体の発達のことを考えると違和感があるため、ここでは成人男女と対象となる少年の年齢差は、少なくとも三歳あることを条件としておきます。

*1:鹿火屋一彦「少年同性愛」(礫川全次編『歴史民俗学資料叢書第三期 ゲイの民族学批評社、2006年)

*2:稲垣足穂少年愛の美学』角川文庫、昭和48年、pp296-297

*3:C.R.バート・A.M.バートル著、羽生和紀監訳、横井幸久・田口真二編訳『犯罪心理学―行動科学のアプローチ―』北大路書房、2006年、pp411-412

*4:ロビン・E・クラーク、ジュディス・フリーマン・クラーク、クリスティン・アダメック共編著・門脇陽子、萩原重夫、森田由美共訳『子ども虐待問題百科事典』明石書店、2002年9月、pp170-171

*5:羽太鋭治・澤田順次郎『変態性欲論』春陽堂大正4年、p169

*6:アンデシュ・ニューマン、ベリエ・スヴェンソン著、太田美幸訳『性的虐待を受けた少年たち ボーイズ・クリニックの治療記録』新評社、2008年、p98

*7:田中優子白倉敬彦『若衆好み 江戸女の色と恋』学習研究社、2002年、p20