BLと少年愛の研究室

児童買春・児童ポルノ禁止法と現在の少年愛【少年愛の歴史~文化から虐待への認識転換~⑭】

現代の少年愛を語るとき、もう一つ注目しておかなければならない法律があります。
1999年に成立した児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(ここでは、以下「児童買春・児童ポルノ禁止法」とする)です。

※「児童買春・児童ポルノ禁止法」については、多くの専門家の方々が論じているので、ここでは、あくまで少年の性被害に焦点を当て、できるだけ簡単にまとめることにします。

14回に分けて少年愛の歴史について書いてきましたが、今回は、そのまとめとして、この法律と、現在の少年愛について思うことを書いておこうと思います。

「児童買春・児童ポルノ禁止法」制定の背景と特徴

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児童ポルノは、欧米で1970年代に精力的に生産され、その過程で性的虐待が行われることや、児童ポルノがさらなる性的搾取・性的虐待を助長する可能性が問題となっていました。*1

1989年に国連で採択された「児童の権利条約」第34条で児童の性的搾取が禁止された後も、世界では児童買春や児童ポルノに関する議論が行われていました。

チェンマイ会議

1990年5月、観光と児童買春」をテーマにした国際協議会がタイのチェンマイで行われ、タイ・スリランカ・フィリピンを中心とした子ども買春の現状について、加害者を送り出した国の名前とともに報告が行われました。その国の中には、日本も含まれていました。*2

ストックホルムでの世界会議

そして、1996年8月にストックホルム行われた児童の商業的性的搾取に反対する世界会議で日本人によるアジアでの児童買春と日本国内で大量に作られる児童ポルノに対して非難が集中したことにより、政府にも規制への意識が高まりました(前掲書:園田)。

日本の書店に並んでいた児童ポルノ

日本は、1994年に子どもの権利条約を批准したものの、国内での法整備は行われていませんでした。1995年から96年に日本キリスト教婦人矯風会が行った、全国110ヶ所を超える書店を対象とした子どもポルノの実態調査によれば、96%以上の一般書店で児童ポルノが売られていたそうです(前掲書:日本こどもを守る会編、p22)。

法制定と非親告罪という特徴

このような世界的な児童買春と児童ポルノの規制の流れの中で成立したものが、1999年の、いわゆる「児童買春・児童ポルノ禁止法」です。

この法の大きな特徴は、刑法と異なり、非親告罪であることです。
そのため、加害者からの報復などを恐れて訴える事のできない場合でも処罰が行うことが可能となり、子どもへの性暴力からのより手厚い保護が行われるようになりました(前掲書:園田)。

 2014年の法改正で単純所持が禁止された

そして、2014年には、定義の見直しとともに、単純所持が禁止されるなどの法改正が行われました。
【参考:法務省だより↓】
法務省だより あかれんが Vol.47 (moj.go.jp)

児童買春・児童ポルノ男児も対象になっている       

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児童買春・児童ポルノというと、女児を対象として思い浮かべる方が多いかもしれませんが、男児が対象になる場合も多くあります。

外国では男児の方が人気のある場合も

先述した1990年のチェンマイ会議では、男児もその対象になっていることが報告されました。

スリランカでは、児童売買春の90%が男子だったそうです。管理組織のもとで売春させられているのは約1万人、その他にリゾートの海岸やホテルの回りに立つ8歳から16歳ぐらいまでの「ビーチ・ボーイ」と呼ばれる男の子たちも多くいるとの報告がなされました。

フィリピンでも、売春させられている子どもの2万人のうち、男の子が60%、女の子が40%だったそうです。

【※ECPATストップ子ども買春の会様のHPが詳しく、引用させていただきました↓
チェンマイ会議(1990年) | ECPAT/STOP JAPAN

日本でも男児ポルノ専門サイトが摘発された   

日本でも、当初は女児にだけ注目が集まっていました。
しかし、2010年4月、男児ポルノを専門に扱った国内のサイトが初めて摘発されたことにより、男児も性的対象になりうるのだということが認識されました。

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男児ポルノ専門サイト」が摘発された記事。被告は「少年愛の素晴らしさを広めるためだった」と述べていた。
(出典・2010年4月15日 読売新聞)

現在の児童買春・児童ポルノの定義

法改正後、現在、児童買春・児童ポルノはどのように扱われているのでしょうか。
1条と2条を引用してまとめておきます。

「児童」・・・18歳に満たない者

●「児童買春」・・・対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすること

児童ポルノ」・・・写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物。次のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法で描写したもの。

①児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
 
②他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
 
③衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
 

 

現在の少年愛について

 

戦後の少年愛の大きな特徴は、児童の権利が唱えられ、児童虐待防止法の成立など法整備が進むとともに、「同性愛」「男色」という言葉から分離したことだと思います。

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26歳の青年が11歳の少年に懸想して起こした事件。「同性愛」という言葉が使われている。
(大正15年5月25日 東京朝日新聞
小児性愛という概念

今では、「同性愛」は成人の男性同士・女性同士に用いられる言葉となっています。
少年に向けられる愛は、精神医学の上では小児性愛ペドフィリア)」と呼ばれ、少女に対する性愛と同じ、子どもを性の対象とする性嗜好と解されています。

少年の性被害に関する研究の進歩

現在では、子どもへの性虐待の現状調査等が行われ、少年への性虐待に関しても、心身にどのような影響を与えるか、海外の研究者たちを中心に調べられています。

例えば、リチャード・B・ガードナーは同性愛の男性、異性愛の男性、女性、少年、肉親など少年愛者に限らず様々な人間が少年への性加害を行っていることを明らかにし、性的虐待を受けた男性は、高血圧・胸痛・睡眠障害・悪夢・息切れ・めまい・拒食や過食などの身体症状がよく見られ、また子ども時代から薬物依存アルコール依存を呈しやすいということを指摘しています。また、性的指向や性同一性への危機ももたらすことにも言及しています。*3

このように、少年の性被害の現状が明らかになったことは、今までの時代にはないことであり、子どもの保護という点で大きな進歩だといえるでしょう。

少年愛=犯罪という図式 と表現規制

しかし、その一方で、少年愛に対し、虐待や犯罪という言葉をすぐに結び付けてしまう傾向が生じたようにも思われます。

1970年代、竹宮恵子先生の『風と木の詩』や萩尾望都先生の『トーマの心臓』などに始まる少年愛漫画のブームが起こり、「漫画で楽しむ」という新しい少年愛の形が生まれました。
現在では、「BL(ボーイズラブ)」と呼ばれる男性同士の恋愛を描いた漫画が大きな市場をつくっており、その中には「ショタ」と呼ばれる少年同士、または少年との恋愛を扱った作品も多くあります。

「児童買春・児童ポルノ法」改正の際は、そうした漫画・ゲームへも「目に余」るとして非難が生じました。
【参考:参議院HP↓】
青少年健全育成のため、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の早期改正を求めることに関する請願:請願の要旨:参議院 (sangiin.go.jp)

2010年の東京都青少年健全育成条例の改正の際には、漫画を規制対象とする提案が行われました。これは、表現の自由の問題との関わりもあり、大きな議論を巻き起こしました。

今も、漫画・ゲームの規制をどうするかという議論はありますが、漫画や絵の中の少年を楽しむことが、少年への性虐待という現実での犯罪にどれほどの影響をもたらすのかということは明らかになっていません。

そういった研究や規制の方法論が不十分なまま、創作物にまで規制が強められることには、疑問を持っています。

おわりに:少年愛の歴史を振り返って

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これまで14回に分けて、日本の少年愛について、時代ごとにどのように認識され、法規制が行われてきたかを見てきました。

「日本は昔から男色に寛容だった」と言われたりもしますが、実ははるか1000年以上前の平安時代の頃から明治時代の間、性行為を伴った少年愛が存在しながらも、様々な規制が行われていたことが分かりました。

また同時に、少年愛は風俗・文化として存在し、能や歌舞伎という文化を生み出したこと、武士の間では、主従関係を固めるための制度として機能していたことも確認できました。

歴史の中には、攻め手と受け手の少年、双方の同意に基づく関係もあったと思います。
しかし、日本の少年愛は、古来、身分の上のものが身分の下の少年を愛するという図式の中で成立していました。

身分制度の中で忘れられていた少年たち

そのため、身分制度の中で、貧困など様々な事情を抱えた少年が人身売買などで悲惨な性的暴行を受けていたことも忘れてはいけないと思います。
少年愛に関して行われていた法規制も、そのほとんどは、少年を保護するためのものではなく、風俗を乱さないようにするためのものでしかありませんでした。

現代に入り、子どもの視点に立った法規制が進められたことは大きく評価すべきだと思います。

偏見により今だに被害を訴えられない少年もいる

ただ、今でも、被害を受けた少年たちは、偏見の中で、自らの被害を訴えることができずにいる場合があります。

2011年11月に放送されたNHKの福祉番組「ハートをつなごう」では、男性の性被害についての特集が行われ、幼い頃に男性から性暴力を受けた4人の男性が出演し、今も残る心の傷について語っていました。

その中で、性被害を受けた少年は、少女に比べて被害を訴えることは少ないという話がありました。そこには、自分が同性愛者と思われることへの恐怖があるとのことでした。

少年愛者への抑圧と苦しみ

また、大正期からの異性愛中心主義と、少年愛を病理とみなす傾向は、自身の生まれながらの性癖を必死で抑える少年愛者たちに対し、必要以上の抑圧を与えているようにも思います。
小児性愛者=性犯罪者という図式は、必ずしも成立するものではありません。

私は子どもは絶対に大人が守るべき存在だと思っていますし、決して小児性愛について「権利を求める」「理解しろ」というのではありませんが、頭ごなしの社会の偏見が、自身の性嗜好に悩む人たちの相談できる場所を奪ってしまっているように思います。

性というのは、話題にするのがはばかれるものではありますが、「食」「睡眠」と並ぶ根源的な欲求です。ここを抑えられるというのは、とても苦しいものです。
お金で解決できない、話もできない、非実在の少年を対象とした楽しみも規制される、となっては、どうしたらいいのでしょう。

少年たちを性被害から守るために

行き過ぎた性描写を快く思えないのは分かりますが、私は、創作物の規制というのは、「子どもの人権を守る」という大きな目的からは、ずれたものだと思っています。
そこには、そんなものを楽しむのは「変態」「気持ち悪い」という意識があると思います。

そういう簡単な図式が、何とか自分を抑えようとしている小児愛者を追い詰め、少年の被害者をも苦しめているのではないでしょうか。

一度、当然と思っている価値観がいつ、どこからもたらされたものなのか見直し、小児性愛に対する頭ごなしの偏見を取り払うことは、決して子どもたちを守るために不必要なことではないのでは、と思ってこれまで少年愛の歴史をまとめてみました。

 

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

 

【※古い著作が多いのですが、今まで脚注に出せなかった参考文献は、下記のとおりです。】
・里見弴「君と私」(里見弴『里見弴全集 第一巻』筑摩書房、昭和52年)
・長谷川興茂・月川和雄編『南方熊楠男色談義―岩田準一往復書簡』八坂書房、1991年
中山研一『刑事法研究 第五巻 わいせつ罪の可罰性―刑法175条をめぐる問題―』成文堂、1994年
伊藤文學『薔薇ひらく日を 「薔薇族」と共に歩んだ30年』河出書房新社、2001年
ヤコブ・ビリング著、中田和子訳『児童性愛者 ペドファイル解放出版社、2004年
伊藤文學『「薔薇族」の人びと―その素顔と舞台裏』河出書房新社、2006年
・パメラ・シュルツ著、颯田あきら訳『9人の児童性虐待者』牧野出版、2006年
下川耿史性風俗史年表 昭和戦後編』河出書房新社、2007年
下川耿史性風俗史年表 明治編』河出書房新社、2008年
下川耿史性風俗史年表 大正・昭和編(戦前)』、2009年
・ロバート・オールドリッチ編、田中英史田口孝夫訳『同性愛の歴史』東洋書林、2009年
・香月真理子『欲望のゆくえ 子どもを性の対象とする人たち』朝日新聞出版、2009年
・風間孝・河口和也『同性愛と異性愛岩波新書、2010年
・竜超編『薔薇族 400号』、2011年

 

 

*1:園田寿『解説児童買春・児童ポルノ処罰法』日本評論社、1999年

*2:日本子どもを守る会編『1999年版 子ども白書』、1999年

*3:リチャード・B・ガードナー著、宮地尚子ほか訳『少年への性的虐待 男性被害者の心的外傷と精神分析治療』作品社、2005年